第17章:手話言語におけるCL構文(I)

本章および次章では、手話言語におけるCL構文を取り上げる。これまでに研究されている手話言語の多くで、手話のCL構文が報告されている(Zwitserlood 2012)。CL構文は、視覚的・空間的にも図像的で、複雑な形態論的構造をしており、様々な形態素を同時的に組み合わせて用いる。

手話言語におけるCL構文の特徴を理解するために、まずは、音声言語におけるCL(類別詞)とは何かという基本を理解する必要がある。CLとは、そのCLが結合する名詞が有する、何らかの特徴を表す形態素(意味をもつ最小の言語単位)である(Allan 1977)。CLは、言語同士の繋がりや、地理的な距離に関係なく、多くの音声言語に見られる。中国語の一種である広東語では、数詞が付いている場合、名詞表現においてCL形態素を用いなければならない。例1〜例3に、広東語の名詞表現を三つ示す。それぞれ、数詞、CL、名詞で構成されている。例1のgaa3は、乗り物を表すCLである。gaa3は、ce1(「自動車」)だけでなく、飛行機、バス、列車、自転車、戦車などの乗り物にも使用できる。例2のtiu4は、細長いものを表しており、蛇、毛髪、水道管、川、虹などの名詞と合わせて使用できる。例3のbaa2は、人がつかむための取っ手・柄が付いた物体を表し、ナイフ、銃、定規、剣、ノコギリなどの名詞と合わせて使用できる。

これらの拘束形態素がCLと呼ばれるのは、名詞の指示対象を、より下位のグループに分類(グループ分け)することをひとつの機能としているためである。言語におけるCLを研究することによって、この世界で経験する物事を人間の脳がどのように概念化し、分類しているのかを知るための興味深い視点が得られる。音声言語においてCLを用いて表現される分類の例として、材料、形状、大きさ、配列、場所、数量、人間性(人間であること)、有生性などが挙げられる(Allan 1977, Her, Hammarström, and Allassonnière-Tang 2022)。また、CL体系を有する音声言語において、最も一般的なCLは、人間性、有生性、長い形状、丸い形状に関するものである(Croft 1994)。

広東語では、CLは、名詞句の中で用いられる。しかし、言語の中には、CLが動詞に付加されるものもある。こうした音声言語は、アランの類型論的研究(Allan 1977)では、述語CL言語(predicate classifier language)と呼ばれている。例4は、アメリカ先住民言語のひとつ、カユーガ語の例である(Mithun 1986:386-388、Grinevald 2000, Sandler & Lillo- Martin 2006に引用)。CLの–treht-が、動詞の–aeに付加されている。

手話の述語CL言語との類似性を最初に提唱した手話言語学者は、スパラ(Supalla 1982, 1986)である1。手話言語におけるCLは、動詞の語幹と結合する手型の形態素で、動きや位置により述部を形成する。手話のCL手型には、基本的に、SASS(Size and Shape Specifier)、実体CL(Entity ClassifierまたはSemantic Classifier)、操作CL(Handling Classifier)の三種類がある。本章では、まず、SASSの例を考察する。残りの二種類のCLについては、次章で取り上げる。

SASSは、物体の外見を表す手型である。

(5) 「テーブルの上に、グラスとお皿が置かれている」

例5では、話者は最初に名詞の/テーブル/を提示し、次にCL述語[=長く平らな物体がある]を示している。このCL述語で、話者は、手のひらを下に向けてテーブルのCLを標示している。この手型は、動き、位置、向きといった他のパラメータと組み合わせなければ、手話空間におけるテーブルの正確な位置を表現できないため、拘束形態素であると言える。テーブルを示した後、他の二つの物(グラス・お皿)の位置を、それぞれ名詞表現の後にCL述語を付してひとつずつ説明している。グラスのCL手型はC手型、お皿のCL手型は親指と人さし指をcの形にして表現している。これらのCLは全て、結合する名詞の外見(大きさと形状)を表している。したがって、SASSに分類される。

例5のSASSは全て、場所を示す動詞の語幹と組み合わさって、実際にある位置を示している。CL手型は、運動を示す動詞の語幹と組み合わせることもできる。下記の例6は、ボール状の形を表すSASSと運動を示す動詞「bounce[跳ねる]」を組み合わせたものである。

(6) 「ボールが跳ねている」

例7のように、左右の手でふたつの異なるSASSを提示し、それぞれ異なる指示対象を指し示すことも可能である。

(7) 「月は地球の周りを回る」

例7では、最初に地球を名詞で提示した後、CL述語を用いて手話空間の中で地球の位置を示している。次に月を提示してから月と地球との位置関係を示すための別の節が提示されている。この時、月を表すCL手型が地球を表すCL手型よりも小さい点に留意してほしい。最後の節では、月のCLを表す方の手が、地球のCLの周りを回っている。

下記の表1は、日本手話におけるいくつかのSASSの手型例とその手型が表しうる物体の例を示したものである。

表1. 日本手話におけるSASSの手型例

手型 その手型によって表すことができるもの
二次元的な円形の物体。大きなボタン、硬貨、フクロウの目など。

非常に小さな物体。ボタン、種子など。
円筒形の物体。コップ、グラス、ソフトドリンクの缶など。
三次元の曲面がある、あるいは、立方体の物体、または、底部が広がっている物体。鐘、家、ピラミッドなど。
ふたつの細長い部分があり、それらが片端で繋がっている物体。カニのハサミ、ハサミ、箸など。
直線状の物体。歯ブラシ、コンパスの針、編み針など。

SASSは、視覚図像的であるため、手話言語間で似通っていることが多い。

参考文献:

  • Allan, Keith. (1977). Classifiers. Language. 53. 285-311. 10.1353/lan.1977.0043.
  • Croft, William. 1994. Semantic universals in classifier systems. Word 45(2). 145–171.
  • Grinevald, Colette. 2000. A morphosyntactic typology of classifiers. In Systems of Nominal Classification, ed. Senft, Gunter, 50–92. Cambridge: Cambridge University Press.
  • Her, One-Soon, Hammarström, Harald and Allassonnière-Tang, Marc. “Defining numeral classifiers and identifying classifier languages of the world” Linguistics Vanguard, vol. 8, no. 1, 2022, pp. 151-164. https://doi.org/10.1515/lingvan-2022-0006
  • Mithun, Marianne. 1986a. The convergence of noun classification systems. In Noun Classes and Categorization (Typological Studies in Language 7), ed. Craig, Colette, 379–397. Amsterdam: John Benjamins.
  • Supalla, Ted. 1982. Structure and acquisition of verbs of motion and location in American Sign Language. PhD dissertation, University of California, San Diego.
  • Supalla, Ted. 1986. The classifier system in American Sign Language. In Noun Classes and Categorization, ed. Craig, Collette, 181–214. Philadelphia: John Benjamins.
  • Tang, Gladys. 2007. Hong Kong Sign Language: A Trilingual Dictionary with Linguistic Descriptions. Hong Kong: The Chinese University of Hong Kong.
  1. [1]過去数十年間、文献を通じ、述語に含まれる図像的な手型の形態素をCLとして分析することの適否について、盛んに議論が行われてきた。動詞・CL結合は、文献の中で、空間・場所述語(spatial-locative predicates)、多形態素述語(polymorphemic predicates)、造語能力のある手話単語(productive signs)、図像性の高い構造(highly iconic structures)など、様々な名称で呼ばれてきた。より詳しい議論に関心のある方は、文献(Zwitserlood 2012, Sandler & Lillo-Martin 2006)を参照されたい。 ↩︎